ジョン・ウィリアムズ 『ストーナー』

 ある意味、変わった小説だといえなくもない。小説の粗筋は簡単で、一人の大学の教師(ストーナー)の一生が淡々と叙述されるというもの。事件らしい事件はこの小説の丁度中間に起きる大学での失脚事件(失脚という言葉は必ずしも適切ではないだろうけど失脚と言えなくもないと思う)だけかもしれない。もう一つ付け加えるのであれば失脚事件に続く不倫(不倫という言葉のイメージとはかけ離れていて、ストーナーの本当の恋愛と言えると思う)。

 つまらない要約より原文を少し引用した方がいいと思うので引用する。

 (ストーナーの父が死んだとき)
 He made the arrangements that had to be made for the funeral and signed the papers that needed to be signed. Like all country folk, his parents had burial policies, toward which for most of their lives they had set aside a few pennies each week, even during the times of most desperate need.

 これだけの引用だけでも大体どういう感じの叙述の小説かは分かっていただけるのではないだろうか。このpolicyは保険証書、というほどの意味。


 当たり前のことだが前半は後半の準備だとも言えなくはない。けど私はどちらかと言えば前半の方が気持ちよく、というか静かな楽しみという感じで読んでいた。失脚事件が読んでいて不愉快なのである。というか嫌な男が登場する。まあ成功したとは言えない、失敗とも言えるストーナーの人生に嫌な男が現れるのは不思議ではないのだけど。

 書評からの引用なのであろう、sad, sadnessという単語が裏表紙にある。確かに静かな悲しい物語なのかもしれない。といっても何か悲しい事件が生じるというわけではないけれど。

 どういう人にお勧めの小説なのだろうか。面白おかしい小説ではない。静かな悲しみに浸りたい人に向いているのだろうか。こんな小説、面白くもない、という人は当然いるだろうし退屈だと思う人もいるだろう。叙述のテンポは速いと思うので退屈はしないかも。

 最後の方であっと驚く感動的な部分がある(と私は思う)ので読み始めたら最後まで読んでみてください。

 人間の一生とはこういうものだ、そんな小説だと思う。